2004年から19年間本拠地として使用していた札幌ドームに別れを告げ、2023年から本…
【自前?借り物?】プロ野球12球団別球場運営の違いとは
2004年から19年間本拠地として使用していた札幌ドームに別れを告げ、2023年から本拠地を北広島市にあるエスコンフィールドに移した北海道日本ハムファイターズ。その移転騒動の裏側には野球に限らない、日本スポーツ界共通の問題がいくつも存在していました。当連載記事は、3回に分けて移転問題の背景から日本スポーツ界の未来まで幅広く考えるコラム記事です。
(全3回の#1)
プロ野球100年の歴史の過去を振り返ると、本拠地移転は決して珍しい現象ではありません。特に昭和の時代には各球団が本拠地移転を繰り返していました。
それでもここ最近は本拠地移転問題はどれも週刊誌の噂レベルにとどまり、現実的でないものばかりでした。
ところが2018年、日本ハムファイターズは以前から囁かれていた本拠地移転と新球場建設を発表。大きな話題になりました。新球場、エスコンフィールドの建設には600億を超えるコストを要し、本拠地は札幌市から北広島市に移るなど利便性の面を含めても失うものは多いように思います。
まして新庄選手、ダルビッシュ選手、大谷選手など数々のスター選手が在籍したファイターズは、札幌移転後2度の日本一に輝くなど、球団として円熟期を迎えているかのように思えました。それでも球団が本拠地移転に踏み切ったその背景には、札幌ドームと日本ハム球団にあった複雑な球場契約がありました。
そこで第1回となる当記事では、12球団それぞれの本拠地の運営方法の違いについて取り上げようと思います。
球場って「誰」の持ち物??
球場問題を語るうえで欠かせないのが、そもそも球場は誰の持ち物なのかという点です。
スポーツをしたことのある方だと、施設(グラウンドや体育館など)を借りる際に施設に利用料を支払った経験があるのではないでしょうか。これは球団が球場を借りる際も同様で、球場を使うためには球場の運営者にお金を支払う必要があり、球場での売り上げなども球場管理者のもとに入ります。
プロ野球の開催ができる球場となると、借りる際に必要なコストも膨大です。したがって、球団は毎年施設利用料だけで多額の赤字を計上してしまうことになります。またそれを補うためにグッズやイベントで売り上げを出そうにも、施設管理者の協力が必須です。なぜでしょうか。
分かりやすく例えると、家の種類を想像してみてください。
一軒家に住んでいれば、家は自分の持ち物です。その家を使って何か商売をしたり、工事をして模様替えをしたとしても特段誰の許可も必要ないですね。一方でマンションの一室を借りている場合はどうでしょうか。商売をするとなるとマンションの管理人の許可が必要ですし、周りの住人のことを考えると模様替えもなかなか難しいです。
球団が球場の運営管理権を持っていない場合、球場はマンションと同じ扱いですので、イベント目的で球場を一部改修することすら困難なのです。
要するに、球場での食品売り上げや広告料がそのまま球団に入り、自由に球場内の施設を使ってイベント企画をできるようにするためには、「球場を球団の持ち家にする」必要があるということです。もう少しわかりやすく言うと「球場の運営管理権を球団が持つ」状態が理想だということです。
「自前型」「賃貸型」「公設民営型」の運営スタイル
現在12球団の本拠地事情を見てみると、
- 球場を球団もしくは親会社(グループ会社)が所有し、運営も行っている「自前型」
- 球場を外部から借りている「賃貸型」
- 自治体が所有し、球団で運営が行われている「公設民営型」
の3パターンに分かれています。
自前型
- 福岡ソフトバンクホークス(福岡PayPayドーム)
- 阪神タイガース(阪神甲子園球場)
- 西武ライオンズ(ベルーナドーム)
- オリックスバファローズ(京セラドーム大阪)
- 中日ドラゴンズ(バンテリンドームナゴヤ)
- 北海道日本ハムファイターズ(エスコンフィールドHOKKAIDO)
福岡ドームは1993年のオープン後数十年で何度か所有先が変わっています。建造当初はホークスの前親会社であったダイエーが所有していましたが、経営悪化により2003年に海外投資会社に売却。しばらく所有者は外資系企業でしたが、2012年に球団が870億円で買収に成功、12球団唯一の完全自前球場となっております。
阪神と西武はそれぞれ親会社である阪神電鉄、西武鉄道が球場を所有しています。そのため、入場料、売店収入、広告料などすべてが親会社のもとに入る形になっています。親会社がチームを運営していますので、自前型といえるでしょう。
大阪ドーム(現京セラドーム)は当初、大阪近鉄バッファローズが本拠地として使用し、球場は大阪市中心の第三セクター(ほぼ大阪市経営)が運営していました。しかし、近鉄が球場使用料の負担などから経営難に陥ったことにより近鉄とオリックスの合併騒動が発生。その影響から2007年にオリックス不動産が第3セクター所有の大阪ドームを買い取り、京セラドーム大阪として生まれ変わりました。そのため現在はグループ会社(オリックス不動産)が本拠地を所有している状態となっています。
中日の場合も同様、親会社である中日新聞のグループ会社である株式会社ナゴヤドームが本拠地を所有しています。両球団とも厳密には球団の自前とは言えませんが、グループ内での金銭の動きになるため、ここでは自前型に含めることにします。
賃貸型
- 東京ヤクルトスワローズ(明治神宮野球場)
- 読売巨人軍(東京ドーム)
神宮球場は宗教法人明治神宮が保有する球場で、ヤクルトは毎年年間10億円で借りている状態です。使用契約は1年ごとの更新であることが、本拠地移転騒動がたびたび発生する要因になっています。
明治神宮球場一帯の再開発計画も着々と進行し、2030年には現在の秩父宮ラグビー場の跡地に新球場が建てられる予定ですが、球場保有者とヤクルトとの関係は維持されるでしょう。
また、創設当初六大学野球連盟が尽力した歴史から、学生野球がスケジュール的には優先されています。プロ野球ファンの一部の方は、「大学野球が間借りしている」と勘違いしていますが、「ヤクルトが間借りしている」というほうが正しい解釈でしょう。そのため、大学野球開催時にはヤクルトの主催試合もある場合試合開始が30分遅れたり、選手の練習を室内野球場や軟式野球上で行うなどの対策が取られています。
公設民営型
- 広島東洋カープ(MAZDA Zoom-Zoom スタジアム 広島)
- 千葉ロッテマリーンズ(ZOZOマリンスタジアム)
- 東北楽天ゴールデンイーグルス(楽天モバイルパーク宮城)
- 横浜DeNAベイスターズ(横浜スタジアム)
マツダスタジアムの場合、所有者は広島市で、球団は指定管理者とされています。2009年に建造されて以来、カープは年間5.79億円の使用料とは別に10年で21億円を支払い、球場内の広告料や売店の販売権などを運営・管理する契約を結びました。
ロッテも同様で、本拠地であるマリンスタジアムは千葉市が所有していますが、球場内広告や売店はある程度自由に管理できる体制になっています。
楽天は2005年の球団開設時に、球場の改修費用を球団が全額負担することを条件に年間使用料5000万円という破格の契約を結びました。加えて、球場内の広告料やグッズ売り上げなど、すべてが球団に入る仕組みを作り上げたため、参入直後から黒字経営という目覚ましい成果を出しています。
この所有は地方自治体のまま、指定管理者として運営権を得る方法はメジャーの多くの球団でも採用されている仕組みです。第3回で詳しく触れますが、この公設民営型のパワーバランスが今後の日本スポーツ界において最重要議題だと言っても過言ではありません。
ここ数年で運営体制が変わった球団
第2回記事(日本ハムファイターズの本拠地移転はなぜ起こったのか。)
にて日ハムの本拠地移転は詳しく扱いますが、日ハム以外にもここ数年で本拠地の運営体制が変わった球団として、巨人とDeNAが挙げられます。
読売巨人軍(東京ドーム)
巨人の本拠地である東京ドームは2020年まで「株式会社東京ドーム」が運営。巨人は年間使用料約30億円を支払っていながら、約100億円ともいわれるグッズ収入も、球団にはあまり入らない状況でした。
2020年には都市対抗の開催時期と被ってしまったため、日本シリーズで巨人が東京ドームを使えない(京セラドームで実施)といった事態も起こっていました。球場の老朽化も相まって本拠地移転の噂は後を絶たず、築地への移転などが噂されていました。
しかし時を同じくして2020年、三井不動産が株式会社東京ドームをTOB(株式公開買付)によって子会社し、その株のうち20%を読売新聞社に譲渡しました。さらに、読売新聞、東京ドーム、三井不動産の三社で資本業務提携を結んだことで完全な形ではありませんが、球団が球場の運営管理を行えるようになりました。
横浜DeNAベイスターズ(横浜スタジアム)
横浜スタジアムはもともと市民球場でした。ベイスターズの前親会社であるTBSは2011年、DeNAへと球団売却を行うことになるのですが、その原因の一つに高額な球場使用料があるとされ、一説には入場料収入の25%、年間約20億円の支払いが行われていたとされます。
球団売却後、一時は本拠地移転も噂されましたが残留。4年間で平均観客動員数は1.6倍増加しましたが、球団単独の収支は依然赤字でした。そこでDeNAは2016年、球場管理会社である株式会社横浜スタジアムの株主に対し公開買付を実施し、子会社化に成功。念願の球場運営管理権を獲得したのです。
このように、上記2球団は本拠地移転の噂は浮上したものの、本拠地を移転させずに球団と球場の運営一体化を成し遂げました。
それではなぜ、日本ハムファイターズは本拠地移転に踏み切ったのか、そうして出来上がった新本拠地「エスコンフィールド」とはどんな球場なのか、それらは次回記事で扱うことにしましょう。
第2回:日本ハムファイターズの本拠地移転はなぜ起こったのか。
参考文献
横浜スタジアムは、どう変わっていくのか(東洋経済オンライン)
プロ野球球団。本拠地移転問題から見る球団の経済事情(LEADERS online)