昨今、日本ではスポーツが大きな盛り上がりを見せています。 2022年冬、カタールでサッカー…
「スポーツ×街づくり」が持つ、無限の可能性
皆さんは日本のスタジアム・アリーナといわれると何を思い浮かべますか?
日本に既に存在するスタジアム・アリーナは屋根で覆われたものが多く、施設内で建物は完結し、その周囲は駐車場があるくらいで、スタジアムと周辺環境との関係は切り離されているとものが一般的です。そのため、スタジアム・アリーナにはスポーツだけを観に行き、観戦が終われば電車・車で家に帰るといった観戦方式が一般的でした。しかしここ数年、スタジアム・アリーナの在り方が見直され、都市と連携した従来とは異なる画期的なスタジアム・アリーナの建設が進んでいます。
具体的には、2023年にオープンし、その規模の大きさ、周辺施設の充実度で話題になった日本ハムファイターズが本拠地として使うエスコンフィールドや、2024年秋頃の開業を目指し、サッカースタジアムを中心にアリーナ・オフィス・商業施設・ホテルなどの複合施設を民間主導で開発するプロジェクトである長崎スタジアムシティプロジェクトなどが挙げられます。
スタジアム・アリーナをただ競技をするための施設として終わらせず、そこに新たな付加価値を持たせることが重要で、その中でも「スポーツ×街づくり」は今後のスポーツ界において、一つのトレンドといえます。
当記事では、「スポーツ」と「街づくり」という一見関連性の低そうなキーワード同士がなぜ結びつくのか、そのメリットと先進的な海外の事例なども併せて詳しく解説していきますので是非最後までご覧ください。
「スポーツ」と「街づくり」の親和性とは
2020年に発生したコロナウイルスの影響から、スポーツ含むエンターテイメント業界に限らずとも、世間全般でオンライン化が進みました。実際、コロナウイルスの大流行から3年がたった今でも、会議の多くはオンラインで行われ、オフィスでなく家で働くリモートワークの流れは今後も続いていくでしょう。
しかし、人々の都市間での移動が以前よりも減った今現在においても、人気プロスポーツは一会場に数万人規模で人を集めることができます。実際に、プロ野球・Jリーグの開催日になればスタジアム・最寄り駅の周りはユニフォームを着たファンであふれかえります。つまり、スポーツは多くの人を動かせる希少性の高いコンテンツと言えるのではないでしょうか。
そして試合のために集まった数万人規模の人の流れを有効活用しない手はありません。周辺施設にとってはまたとないビジネスチャンスが生まれるのです。それは都心に限った話ではありません。
「スポーツツーリズム」という単語をご存じでしょうか。
スポーツの参加や観戦を目的として地域を訪れたり、地域資源とスポーツが融合した観光を楽しむことを指し、世界市場も大きな拡大を続けています。スポーツをきっかけに地域に多くの人が集まり、消費が生まれることで経済が活性化され、人々の交流が生まれていきます。これらの循環的な作用は、地域の持続的な成長をもたらすといっても過言ではありません。地方という土地は広い一方で他の地域と差別化できるコンテンツの無い場所だからこそ、スタジアム・アリーナの建設が比較的容易であり、またそれら建物は町のシンボルにもなりうるのです。
日本でも、声出し応援や観客制限が解除されたことや、ワールドカップやWBCなどの国際大会が相次いで開催されたこともあり、スポーツの盛り上がりもコロナ前の勢いを取り戻してきています。その中で現在、日本全国で、サッカー・バスケットボールなどの競技のアリーナ・スタジアムの再開発、建設プロジェクトが増えています。そこで、スポーツで集めた人を循環させ、恒常的な成長につなげるために周辺施設の充実、いわゆる街づくりが必要となります。
このように、スポーツと街づくりはとても親和性が高いのです。
「スポーツ×街づくり」の事例(海外ver)
スポーツ施設をコストセンター(直接利益を生まない)でなくプロフィットセンター(直接利益を生み出せる)としてみる動きは海外の方が進んでいます。ここではスポーツを中心に大規模な街づくりを行う海外の事例をいくつか解説します。
①SoFiスタジアム(アメリカ)
まず紹介するのは、2026年のアメリカ・カナダ・メキシコの共催で行われるサッカーワールドカップ、2028年のロサンゼルスオリンピックでの使用が予定されている、米国ロスの新スタジアム、SoFiスタジアムです。スポーツスタジアム史上最大規模の電光掲示板を有する当スタジアムは収容人数約10万人、総工費は50億ドル以上とも言われ、日本の国立競技場の3~4倍の規模となっています。
注目は、自治体に頼らない各企業の「共創」システム
通常のスタジアムだと、メーカーまたは建設資材会社が「サプライヤー」として商品や資材をデベロッパーに提供するという構図になりますが、SoFiスタジアムの場合それぞれの民間企業がそろって実証実験に取り組み、共創という形をとっています。そのため、多額の建設費も自治体からの助成は一切なく、すべて民間で完結したスタジアムになっています。
具体的には、Squareというテック企業が決済面をサポートし、スタジアム内の完全デジタル化をサポート、フィールドの上には7万平方フィートにも及ぶSamsungの「Infinity Screen」が吊り下げられ、交通面ではアメリカンエアラインズなど航空、交通機関とも連携、Google cloudのようなデータプラットフォームの援助も受けつつ出来上がったスタジアムです。スタジアム内で行われるイベントのストリーミング配信については、CiscoとAmpThinkがデジタルインフラを提供しています。
このように、スポーツを媒介に多くの人・企業が集まりそれぞれの技術を集めて作る「共創型」スタジアムとなっているのです。
広大な土地で進められる街づくり
もちろん、大規模なのはスタジアムの建設だけではありません。SoFiスタジアムを中心に全体で国立競技場10個分、ディズニーランドの3倍の敷地にショッピングモール、キャンパスのようなオフィス、低層マンション、高級ホテル、シネコン、レストランなど、大きな街がつくられています。
SoFiスタジアムはハリウッドやロサンゼルスのすぐ近くという地の利を活かし、スポーツだけではなく音楽、ファッションやアートのトレンドを発信するエンターテインメントの拠点を目指しているのです。
②O2アリーナ(イギリス)
二つ目の例として、米国のスポーツエンターテインメント会社AEG(アンシュッツ・エンターテイメント・グループ)が運営するO2アリーナをご紹介します。主にコンサートやスポーツで使用される当アリーナは23,000人の収容が可能で、ヨーロッパの中でも屈指の大きさを誇り、販売チケットの数も多く、世界で最も人が集まる音楽・エンターテイメント会場の一つです。
スポーツではNHL開幕戦やNBAの試合が行われ、レッド・ツェッペリンやプリンス、メタリカなど多くの著名アーティストがライブを行っています。
豪華な周辺施設
O2アリーナはその周辺にも豪華な施設が多くそろっています。
そもそもO2アリーナは大規模娯楽施設「The O2」の一部であり、他の複合施設として、ナイトクラブ(indigo O2)、博物館(O2 bubble)、シネマコンプレックス(Cineworld@TheO2)などが存在します。
ショップやレストランも充実しており、アルコールを提供するバーから軽食をとれる店まで幅広い飲食店が展開されており、イベント前やイベント後に回ることが出来ます。
さらに、施設をフル活用すべく、屋根の上を横断し360度景色を見渡せる「アップアット・ジ・オーツー(Up At The O2)」というイベントが行われています。東京ドームの約2倍という広大な土地の上に立つThe O2の上部を歩いて登頂し、ロンドンシティやテムズ川といった観光名所を見渡すことが出来ます。
注目すべきは、再オープンである点
O2アリーナは2000年に展覧会を主な目的として作られた施設ですが、収益率が悪化したことからAEGが改修、2007年に再オープンするという歴史を持っています。その結果世界屈指のベネフィットセンターに生まれ変わるわけですが、「使う側」であるエンターテイメント会社が改修を行い再オープンさせた点が重要です。
多くのスポーツ施設が現段階で存在する日本において、新規で一からスタジアム・アリーナを建設するのに比べるとコスト的にも抑えられることから、注目すべきビジネスモデルといえるのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか。日本も政府を中心にスタジアム・アリーナ構想を推し進めるなどスポーツ産業に力を入れてきています。
日本のスタジアム・アリーナ問題については下記記事をぜひご覧ください。
参考文献